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OPMでCSM音声合成

データ制作・本ページ執筆:293 (a..k.a hex125)

はじめに

これはニコニコ動画で公開した「NRTDRV(+CSM音声合成)で「もってけ!セーラーふく」を作ってみた」で行なった音声合成法の解説です。CSM音声合成用のデータを作成するためのプログラムを公開できれば良いのですが、諸々の事情によりちょっとできそうにありません。そこで、考え方や技術などについて書きたいと思います。

動画を見ていただければ判るとおり、一応、それなりの成果は得られました。しかし、これはいろいろ手を動かしてみて得られた結果をまとめたもので、理論的に正しいのかなんて全く検証していませんし、このテキストも正しい事を書いている保証はありません。プログラムのミスもかなりやらかしましたし、よく分からないまま進めたところもあり、極めて主観的に判断したところもありで、かなりテキトーにやってたことが判るかもしれませんが(笑)このテキストが何かのヒントになれば嬉しく思います。

なお、CSM音声合成用データの作成にはExcel+VBAを使用しました。その中で、露本伊佐男氏作のExcelVBA用高速フーリエ変換(FFT)ルーチン、および新山(へろぱ)氏作のVB6用ファイルダイアログクラスを使用させて頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。

そして、以下のサイトに記述されている内容が大変参考になりました。ありがとうございました。本稿と合わせて御覧になることを強くお勧めします。

CSM音声合成とは?

CSM音声合成は音声符号化の一種で、元の音声を複数のサイン波(=正弦波)の組み合わせで再現する手法です。CSMはComposite Sinusoidal Modeling の略で「複合正弦波モデル化」という意味です。

「どんな連続波形も三角関数の足し算で表せる」という理論があります。この理論を元に、瞬間的な音声波形をサイン波に分解します(周波数解析)。強く現れている音程のサイン波を適切な音量で複数同時に再生すれば、元の波形と似た波形を再現できます。

この音声合成法に必要な要件は「任意の音程・音量のサイン波をできるだけ多く出力できること」だけです。FM音源はサイン波のカタマリのような音源ですから、この音声合成法と、とても相性が良いと言えるでしょう。事実、YAMAHAのFM音源チップにはCSM音声合成をサポートするような機能が存在しています。

 CSM音声合成モード

ほとんどのYAMAHA製のFM音源には、内蔵のタイマがオーバーフローしたときに全チャンネル(もしくは一部チャンネル)を即座にキーオン/キーオフする機能があります。YAMAHAはこの機能を「CSMモード」もしくは「CSM音声合成モード(CSM Speech Synthesis Mode)」と呼んでいます。

開発者は「音の出力を定期的に確実に更新するから、適切に出音の各パラメータを設定してね!じゃ、後はよろしく!」とでも言いたかったのでしょう。どちらかと言えば、これはCSM音声合成そのものではなく、CSM音声合成時に必要な待ち時間を管理するための機能と思ったほうが良いでしょう。機能としてはそれだけなので、「CSM音声合成モードを使えば誰でも音声合成ができる!」というわけではありませんし、「CSM音声合成モードがないから、CSM音声合成はできない」ということもありません。

いずれにしても音声合成用のデータは自前で用意する必要があります。また、自前で時間管理を行い適切にサイン波が発音できれば、この方式による音声合成自体は実現可能ですから、CSM音声合成モードを使わなければならない必然性もありません。事実、本稿の解説もCSMモードは使用していません。NRTDRVが管理している時間単位で処理をしています。

X1にはFM音源タイマ割り込みがないため、CSMモードを単純利用できません。プログラムを書いて、ムリヤリ使用することは可能だと思われますが、現時点ではそのような仕組みはNRTDRV上に実装されていません。

※ややこしいですが、本稿では「CSM音声合成モード=FM音源上に搭載されている機能」「CSM音声合成=複数のサイン波を同時に出力して元波形を再現する方法」を指しています。明確に使い分けていますが、ココを混同するとワケが分からなくなると思いますので、どうかそのようにお読みください^^;

(参考資料)各FM音源のCSMモードレジスタ

YM2151(OPM)
14H bit7
YM2203(OPN), YM2608(OPNA)
27H bit7/bit6(00=通常/01=効果音モード/10=CSM音声合成モード)
YM3812(OPL2), Y8950(MSX-AUDIO)
08H bit7
YM2413B(OPLL)
確認できず

 使用例

最も著名なのは、やはりなんといっても、一連のゲームアーツ制作のPC-8801用ゲームソフトでしょう。

シルフィード(1986年)にはじまり、ぎゅわんぶらあ自己中心派(1987年)・ゼリアード(1987年)・ヴェイグス(1988年)といったゲームで、喋りまくっています。後期は、PC-8801以外の機種でもFM音源搭載機種ならば、積極的にCSM音声合成を使用しています(X1turbo版のゼリアード(1988年)やMSX版のぎゅあんぶらあ自己中心派(1988年・要FM-PAC)など)。

もっとも、『喋りまくっている』と言うと語弊があるかもしれませんが・・・「ザカリテ」や「しめさば」がキーワードでしょうか(笑) もし、ご存じない方は、YouTube等に動画がありますので、一度ご覧になってみてください。残念ながら、筆者は当時あまり耳にする機会がなかったのですが、それでも店頭デモ等でオープニングに必ず流れる「Presented by GAMEARTS」の音声合成はよく聞きましたし、強いインパクトを受けたものでした。今聞いても、その独特の質感は面白いです。

これらの音声合成を実現していたのは、ゲームアーツ社内で三橋正邦氏が開発した「CSMトーキングシステム」です。ゲームアーツ製のゲーム以外ではほとんどお目にかからなかった手法でしたが、三橋氏の手腕の賜物だったわけですね。

 OPMでの使用例

実はあまり確認できません。X1turbo版の「ゼリアード」(ゲームアーツ)くらいでしょうか。

OPMが標準で搭載されていたパソコンは事実上、X1 と X68000の二機種しかないといって良いでしょう。X1においては前述の通り、OPMのタイマ割り込みがないため、CSM音声合成モードは非常に扱いづらいものになっています。X68000においてはADPCMが搭載されていたため、単にしゃべらせるだけならADPCMを利用した方が断然楽でした。

マイナーなところではMSX(SFG-01)やPC-8801(響)への搭載例もあります。MSXではシステムに喋らせていたという情報もありますが、残念ながら筆者は未聴です。また、アーケードゲームでの使用実績はかなりの数に登りますが、X68000と同様の理由で、CSM音声合成はおそらくほとんど使われてなかったのではないかと考えられます。

 利点と欠点

低リソース・低負荷で再生が可能
当時の8bitパソコンの性能ではPCMの処理は容量的にも処理能力的にも厳しいですが、CSM音声合成は余裕を持って処理できます。ただし補足すると、これはPCMデータと比較した場合の話で、単純な演奏データとして見るとそれなりにメモリ喰らいです。「もってけ〜」の場合、容量的にTVサイズ版しか作れませんでした。おおよその内訳は、システム及びドライバ部(拡張用予約を含む)が16kbyte、バックトラック演奏用データが8kbyte弱、CSM用データが40kbyteほどです。
データ作成に時間がかかる
離散フーリエ変換、およびデータの評価はかなり時間のかかる処理です。「シルフィード100の秘密」で語られていますが、当時はPC-9801(10MHz)で一秒解析するのに数時間かかったそうです。現在は非力なパソコンでもExcelで数十秒の解析にものの数分〜数十分で済みます。良い時代になったものです。
元になる音声波形データが必要
ゼロから作り上げることはできません。特殊な形式ですが「変換」の一種なので、元ネタが無いとなにもできないという、PCMと同じ欠点は引き継いでしまいます。ただし、周波数解析自体がPCMの各種エフェクトに使われる技術でもあります。さまざまな加工ができる余地があり、いろんな可能性を秘めています。
変換元のサンプルによってはまともな音声にならない
人の声なら何でも良いというわけでもなく、大勢の人間がワイワイ騒いでいるようなものや、深いリバーブがかかったもの、ヴォコーダーボイスなどは再現性が非常に悪く、はっきり言ってなにがなんだかわからないものになります。複雑な波形の再現には向かない方法だと言えるでしょう。

 原著論文

古くからある技術ですが、一体いつごろ確立されたものなのか疑問に思ったので調べてみました。日本国内ではどうやらこの論文が原点のようです。ちなみに筆者は未読です。機会があったら読んでみたいですが、理解できるのかしら。。。

嵯峨山茂樹・板倉文忠 (1979年) 「複合正弦波による音声合成」

http://hil.t.u-tokyo.ac.jp/~sagayama/

フーリエ変換

素人がフーリエ変換についてあーだこーだ語るのは荷が重いので、具体的な計算方法や処理の仕方については、解説サイトが結構な数ありますので、ググってそちらを参照してください。ここでは概略と要点の解説にとどめておきます。

フーリエ変換を行うと、以下のイメージのように、時間軸での物理量データを周波数軸の強弱データに変換することができます。どの周波数帯の成分が強く現れているのか、一目瞭然になります。

 離散フーリエ変換(DFT)と高速フーリエ変換(FFT)

本来のフーリエ変換はアナログ波の単一パルスに対して行う処理です。しかし、コンピュータ上で扱えるデータは標本化されたサンプリングデータです。これは連続していない飛び飛びの(=離散している)データです。コンピュータ上で処理する場合は、離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)を用います。

DFTは計算量が多いため非常に時間がかかります。そこで実際には高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を使用することになると思います。FFTとDFTは基本的に同じ処理なので、計算結果は(誤差を除けば)同じになります。唯一の制限が計算できる波形の長さが2のn乗に限定されてしまいますが、DFTに比べて非常に高速に演算が行えるようになります。

 窓関数

フーリエ変換は暗黙のうちに「処理する波形を一周期とした、無限に続く波形」と見なして計算を行っています。この時、始点と終点の値があまりにもかけ離れていたりするなど、音としての連続性に不備があると、本来は存在しない変化が発生してしまい、都合がよろしくありません。

この対策として、自然な形で始点と終点がゼロになるように補正をします。この補正用関数は窓関数(Window Function)と呼ばれています。(・・・厳密に言うと嘘っパチな解説かもしれません。でも、この認識で問題ないと思います。)目的によって様々な窓関数が使われているそうです。

いろいろテストしてみたのですが、窓関数あり・なしで得られた結果を実際に聞いてみても、筆者には違いがよくわかりませんでした。窓関数を使うと音が丸くなったような感じがする程度の違いは感じましたが・・・今回は一応クリティカルな場合を想定してハミング窓を採用しました。さらにちなみに窓関数なし(=なにもしない窓関数)を「矩形窓」と言うそうです。

それなりのキーワードは書きましたので、興味のある方はググッてくださいませ^-^;

この辺りは「そーゆーもんだ」とあまり深く考えずに居たほうが良いと思います。筆者自身も厳密に理解しているわけではありませんし、はっきりいってブラックボックスと割りきって使いました。実際の運用も、露本伊佐男氏のExcelVBA用高速FFTルーチンの解説を理解するだけで必要十分だと思います。

キッカケは「Speaking Piano(喋るピアノ)

以上で述べたように、OPMでCSM音声合成は可能だと想像できるものの、具体的にどうすれば良いのかさっぱり分かりませんでした。

ところがYouTubeで公開された「Speaking Piano(喋るピアノ)」を見たことで、状況が一変しました。

有名な動画だと思うのでご存じの方も多いでしょう。英語もドイツ語もわからないのですが、大変驚きました。フーリエ変換による周波数解析を行ったものだというのはわかったのですが・・・

    • 平均律で出力しても十分声に聞こえる
    • ピアノの鍵盤を同時に押している個数は10音強程度?で極端に多くはない
    • 厳密なサイン波ではなくピアノの音色でも構わない

これらの点が驚きでした。特に平均律で再現可能という点は、OPMでの再現が可能だと予感させてくれました。というのも、OPN系/OPL系のFM音源はF-Number(周波数値)で音程を指定しますが、OPMはKeyCode(鍵盤値)指定なのです。ならばNRTDRVのスペックで十分に再生可能ではないのか?と考え、実行してみることにしました。

OPMでCSM音声合成・その1(1slotのみを使用した音声合成)

まず、Speaking Pianoで行っているであろう手法をそのまま模倣し、1slotのみを使用したサイン波を使って16チャンネルの鍵盤を叩き、同等の音声合成を行うことを第一目標に掲げました。

処理の流れの概略は以下のとおりです。

    1. (前段階処理)PCMを処理時間単位で分割する
    2. 分割したPCMデータを離散フーリエ変換(DFT)にかける
    3. HiPass/LoPassフィルタ等をかける
    4. 計算結果を評価する
    5. 上記の処理をPCMデータの終わりまで繰り返す

 PCMを処理時間単位で分割する

CSMモードを使用しない場合はドライバの時間管理を利用します。ドライバの最短処理時間をテンポ・タイムベース、そしてPCMサンプルのサンプリングレートから算出し、実時間に相当する長さでPCMを分割します。計算式は以下のとおりです。

Rate ÷ (BPM ÷ 60) ÷ TimeBase × Step

仮に作る曲のテンポ(BPM)が120・ドライバの四分音符分解能(TimeBase)が48・用意したPCMデータのサンプリングレート(Rate)が44.1kHz・ドライバ分解能の7Stepごとに処理する場合は 44100 ÷ (120 ÷ 60) ÷ 48 × 7 = 3215.625 となります。この場合、PCMデータを3215個もしくは3216個を読み込んで、その単位ごとにフーリエ変換および評価を行ないます。

ちなみにWAVはヘッダ等がくっついていてちょっと扱いづらいので、筆者は生のPCMに変換してから処理をしました。WAV→PCMのコンバートにはrun68.exeと、NOZ.氏作のpcm3pcm.xを使用しました。以前からMDXの作成などでもお世話になっています。ありがとうございます。

CSMモードを使用する場合は、割り込みタイミングの実時間ごとに分割します。

 分割したPCMデータを離散フーリエ変換(DFT)にかける & HiPass/LoPassフィルタ等をかける

処理時間短縮のため、高速フーリエ変換(FFT)を使用します。この変換で周波数値に対する出力量が求められます。

高速フーリエ変換を使った場合、得られるデータは2のn乗個になります。最終データがPCMのサンプリングレートの周波数になるので、x個目のデータが示すおおよその周波数は「(x ÷ FFTのサイズ) × サンプリングレート」で算出できます。

結果は左右対称になります。意味のあるデータは半分だけです。また、低周波数帯/高周波数帯は窓関数等の影響で意味のないデータになることが多いようです。人の声の再生が目的ですので、適当な範囲のデータ以外を削除することはそれなりに意味がある・・・はずです。

今回はHiPass=400Hz・LoPass=7000Hzで処理した・・・と思います(記憶が曖昧・・・)。この数値も特に理由もなく、適当に決めたものです。

 計算結果を評価する

ココが肝です。

まず評価する前に、離散フーリエ変換で得られた周波数値を、鍵盤の持つ周波数値と比較し、最も近似の周波数値にあてはめて、出力量を集計し直します。

離散フーリエ変換の結果、厳密に周波数成分が解析できるわけではありません。出力結果の周波数値も離散しているので、「このへんの周波数帯がこのくらい強く現れてます」ということしかわかりません。(詳しくはFFTとは?〜本当は正しくないFFTの周波数特性〜を参照してください。)そこで、改めて「鍵盤の周波数値」を基準に再集計します。

これで、おおよその周波数値に対する絶対量が、鍵盤に対する絶対量に置き換わります。出力量の多いデータを上位から必要個数取得して、鍵盤データと音量データを保存します。

ちなみに筆者はこの時の音量値の扱いが未だによくわかっていません。音量は対数変化するので、アレコレいじってなんとなく変換できた気がする・・・という状態にはできたのですが・・・この部分は識者の意見を伺いたいところです^-^;;;

結果例

http://nrtdrv.sakura.ne.jp/mp3/csmtest_20100522_16.mp3

これは1slot×16chで処理したものです(窓関数なし・ほぼLoPass/HiPassを適用せず)。なお、申し訳ありませんが、音量に注意してください(汗)。かなりデカイです(汗)

OPMでCSM音声合成・その2(4slotを使用した音声合成)

その1で取った方法だと、発声だけで全チャンネルを消費してしまいます。RPG等のゲームの演出で、音声のみ出力したい場合には使える方法ですが、ヴォーカル表現への転用を考えると音楽との同期再生ができなければ実用とは言えません。また、使用スロットが4個中1個と、非常に勿体無い使い方をしています。そこで4つのスロット全てを有効的に使う方法はないか考えてみました。

 倍音構成に再集計する

その1とほとんど同じ処理を行ないますが、決定的に違うのは「計算結果を評価する」部分です。その1では鍵盤の周波数に対して再集計しましたが、これをOPMで表現可能な倍音設定の周波数に変更します。

OPMはMULとDT2の組み合わせで64段階の倍音を表現できます。MULは倍音、DT2は倍音の倍率自体の設定項ですから、MUL(16段階)×DT2(4段階)=64段階となります。

上図の音色を使用した場合、o4a(440Hz)の音を出す指示を行っても、実際に出力されるのはo3a(220Hz)になります。アルゴリズム7でOP1のみ有効・MUL=0/DT2=0なことに注目してください。

オペレータは4個ありますから、鍵盤の音程を固定してMULとDT2を操作するだけで、64個中4個の別の周波数の音を1chで出力できます。この64個の周波数は不定ですが、叩く鍵盤の音程を決めた時点で、出力可能な64個の周波数が決まります離散フーリエ変換の結果を、この64個の周波数を基準に再集計します。

結果例

その1では、鍵盤の音程=平均律に従うので、なんとなく多少音痴でも補正されるんじゃないか?という気がしますが、この方法は平均律を完全に無視しています。ですから、とても音痴になる可能性があると予測できます。実際その通りで、試してみると以下のサンプルのようにかなり怪しげな音声になりました。

http://nrtdrv.sakura.ne.jp/mp3/csmtest_20100523.mp3

これは4slot×4chで全チャンネルでo4cを叩いたものです(窓関数なし・ほぼLoPass/HiPassを適用せず)。申し訳ありませんが、こちらも音量注意です(汗)

明らかに元にはない成分が目立った音声になっています。

 複数チャンネルを使用して発音可能な倍音を増やす

周波数帯をイビツな形で64段階に分けただけではクオリティ的にはまだまだ問題があるようです。そこで、複数チャンネルを利用し、叩く鍵盤をズラして、発音可能な倍音成分を増やしてみます。

上図は、平均律とOPMで出力可能な倍音の周波数値の対比図です。平均律は対数変化しているのに対し、倍音はわりと直線的に変化しています。このことからも、倍音利用ではその1と同等の音声合成はできないことがわかります。

倍音は1chのみ使用した場合も2ch使用した場合もあまり変化自体は変わりません。しかし1chのみでは64段階ですが、2ch使用すると128段階になるので、2chを使用した場合は、よりきめ細かくなっています。

そして、NRTDRVで指示できる鍵盤情報はo0d+〜o8d+の97個です(OPMの場合)。複数チャンネルを使用すると、かなりイビツな形ではあるものの、きめ細かさでは、その1を上回ることがわかります。

ただし、1つのチャンネルで発音できる周波数は64個のままですから、仮にAchとBchの2つのチャンネルで演奏するとしたらば、Achでしか出力できない周波数とBchでしか出力できない周波数が発生します。そこで多少変則的になりますが、基準とするテーブルに「どのチャンネルで出力可能か?」というフラグを持たせ、評価の際にはフラグを参照して、そのチャンネルで発音可能な上位4個のデータをそれぞれに取得します。

基本となる鍵盤をどれにするか、また、どれだけ基本となる鍵盤をズラすかは重要な問題ですが、実はあまりテストをしていません。この辺りは最も今後の検証が必要な箇所だと思います。

「もってけ〜」はF majorの曲なので、o4fを基本にすると良いだろうと考えていたのですが、実際に試してみると妙な音声になったので、今回はo4cを基準にしました。また、ズラす幅も半音・全音・4度・5度を試してみたところ、半音が一番明瞭に思えたので、今回は半音を採用しました。かなりテキトーです(汗)

結果例

http://nrtdrv.sakura.ne.jp/mp3/csmtest_20100524.mp3

同じく、4slot×4chでo4c/o4c+/o4d/o4d+を叩いたものです(ハミング窓使用・過度にLoPass/HiPassを適用)

若干怪しさを感じるものの、64段階で処理したものと比べると差は歴然です。

まとめ

 成果物

ニコニコ動画で公開したバージョンのMMLです。

ところがこのMMLには問題がありました。あまりにデータを詰め込みすぎたため、本来使用してはいけない部分も使用していました。具体的にはX1ではメインメモリの &HFF00〜&HFFFF までは、IPL起動時にBIOSが使用するワークエリアとなっているのですが、この部分にまで音楽データが侵食していたため、ディスクから起動できなくなってしまい、まともに実機で演奏できないことになってしまいました。

すーぱーたーぼ氏作の全二重高速シリアル通信モジュール+リモートブート(hssio)を使用すればNRTDRVのIPL起動が不要になるので実行できるのですが(大変お世話になっています。大感謝です!)、やはりディスクから起動できないのは問題なので、2010/06/13版からは音楽データの最大サイズがワークエリアにかからないよう修正されました。そのためこのままではコンパイルできません。冒頭セリフ部と、音楽部をわけたMMLを改めて用意しましたので、コンパイルしてみたい方はこちらを使ってください。

追記:現在のコンパイラは曲データの最適化が実装されていますので、MMLを分割しなくてもコンパイルでき、ディスクからも起動できるようになっています。

 考察及び今後の課題

結果例で示したものと比べると、完成版は音声が劣化している・・・と感じると思います。これには以下のような要因があげられると思います。

    • 使用できるメモリ容量の都合で、割り込み間隔を長めにとったため
    • 同じく、使用できるメモリ容量の都合で、4slot×2chの8個のサイン波出力に変更したため
    • ハニング窓を使用した/hipass・lopassを過度にかけたため

割り込み間隔は短すぎるとブザーのようになってしまい、長すぎるとわけのわからない音になってしまいます。ある程度の幅は許容してくれるようですが、適切な割り込みタイミングはトライ&エラーを繰り返して確認するのが良いと思います。ちなみにテストでは5step(44.1kHzから変換)、完成版では7step(32kHzから変換)で処理しました。割り込み間隔が長くなると、データ量は少なくて済みますが、変化に乏しくなるので声としての精度は落ちます。この辺のさじ加減を変えられるのはある意味面白いですね。


何個のサイン波を使うべきか・・・正直、OPNなどで一般的に語られている4個では少なすぎると感じました。8個あればそれなりに喋ってくれてる感が出てくれるなと感じました。16個だと確かに明瞭になってくれるのですが、8個の場合と比べて二倍の精度があるとはちょっと思えませんでした。というわけで、僕的には8音を基準に考えるのが良いかなと(極めて主観的に)思います。


CSM音声合成のデータ量は、PCMと比較すると圧倒的に小さいですが、シーケンスデータと比較するとかなり大きいです。

方法その2yコマンドzコマンドを使えば処理そのものは全く問題なく行えます。(yコマンドの場合は)コマンドバイトとOPMのアドレス値と書き換えるデータ値の3byte、さらにオペレータ数(4)とTL/MUL/DTの3箇所を書き換える必要がありますから、1回分の書き換えデータに3×4×3=36byte必要になります。

このデータ量を減らすために非公開コマンド$04を作りました。こちらではデータ量が9byteで済みます(詳しくは解説ページを参照してください)。ただし、このコマンドを使って精度を落としたデータを使っても1分強しか喋らせられませんでした。


今回解説した方法その1は、Speaking Pianoの手法の模倣で、その2はその変形です。共通している考え方として、フーリエ変換の結果を再集計し、容易に発音できる周波数に集約して出力することが挙げられます。声のようなものを再現したいだけなら、この考え方に問題はなさそうです。

同一の波形であれば、基本的にはフーリエ変換の計算結果は変わりません(窓関数等の影響で若干変化はしますが、それを考えなければ変わらないと思って良いと思います)。ですから、一番の問題は計算結果をどのように評価し、どのデータを取得するかということに尽きると思います。


その1では、音色パラメータの倍音を固定し、叩く鍵盤を変えることで、出力する周波数帯を区別しています。この方法はNRTDRV以外の音楽制作環境でも、容易に実現できます。特に平均律に従う点は興味深く、多少音痴でも修正してくれそうな気がしますし、安定性もかなり良いように思います。しかし反面、非常に多くチャンネルを消費します。音楽との同期演奏を行う場合は、バックトラック演奏用のデータに割けるチャンネル数が激減してしまいます。

対して、その2は叩く鍵盤を固定し、倍音操作で出力する周波数帯を区別しています。これはOPMの特性を利用したものですから、NRTDRVやMXDRV等のYM2151を操作する環境でなければ実現できません。また、平均律を完全に無視しているためか、ピッチが安定しません(この点も、今後模索の必要があるでしょう)。しかし1チャンネルで4個のサイン波が出せるため、消費するチャンネル数は少なくて済みます。

では、鍵盤と倍音の両方を同時に変更できたら・・・両者の良いトコ取りをして、よりクオリティの良い音声表現ができるかもしれませんが・・・どうやったらそんな評価ができるのでしょうか。。。 どなたか良いアイデアがあれば是非教えていただきたいと思います^-^;;;

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